(「エフェ」から徒歩5分の武の井酒造株式会社。同社の酒蔵に併設したNOBU SAKAGURA Cellar Door~ノブ サカグラ セラー ドア。)
【気軽に酒蔵の扉を開けて欲しい】
武の井酒造株式会社は、創業1865年(江戸時代末期の慶応元年)に創業した老舗酒蔵です。八ヶ岳南麓に在し、環境省選定の名水百選にも選出されている「八ヶ岳南麓高原湧水群」と花酵母を使った日本酒および純米焼酎を醸す酒造として近年高い評価を得ています。現在、日本酒は「青煌(せいこう)」および焼酎と同名の「武の井」の2大ブランドで展開、焼酎には「武の井」のほか、「八ヶ岳の舞」および「太陽の恵み。」といった銘柄が人気です。
この酒造りに強いこだわりを持つ老舗の酒造メーカーが、2024年4月、NOBU SAKAGURA Cellar Door (ノブ サカグラ セラー ドア) をオープンいたしました。海外のワイン工房に併設されるセラー ドア(醸造所に併設されている試飲直売所)の日本酒版です。ご近所さんでもある「エフェ」スタッフ群の僕たちですが、少し落ち着いたと思われる8月に入り、この酒造セラー ドアにお邪魔してまいりました。
(「NOBU SAKAGURA Cellar Door~ノブ サカグラ セラー ドア」の飲食スペース。現在の6代目蔵元:清水元章さん夫人の清水由紀さん。所作がとても美しく梅吉見とれてしまいました。)
(梅吉たちがいただいたのは、1日10食限定のランチメニュー。豚ロースと豚肩ロースを低温調理でじっくりと仕上げたスーヴィー料理&北杜市を中心にした県産野菜のグリエ添え。本日のスープは梅吉が大好物の桃の冷製ポタージュでした。サラダのドレッシングは酒粕を使ったオリジナル。北杜市産米粉入りのパンも香り高く食べ応えがありました。ローカロリーで良タンパク質がとれる「エフェ」の女性のお客様にも大好評間違いなしです。)
調理を担当するのは、六代目蔵元:清水元章さんの妻である清水由紀さん。ジュエリーデザイナーでもある彼女は、彼女の夫同様モノづくりにこだわるタイプで、料理にも造詣が深いようです。
【NOBUの名前の由来は?】
梅吉:非常に美味しくいただきました。全体的にヘルシーで美味しくて…素晴らしいですね。ところで、このセラー ドア「NOBU」の名前の由来について教えていただけますか。
清水由紀さん:現在の蔵元である夫の祖母にあたる方で、清水申(シミズ ノブ、以降ノブと表記)さんという方がいらっしゃったのですが、その方のお名前から付けさせていただきました。明治から平成を生きた方で、4代目蔵元夫人でした。残念ながら私はお会いしたことはないのですが、先代の5代目が亡くなり、古い家屋を片付けている際、ノブに関わるものがたくさん出てきました。気がつくと、この酒蔵セラー ドアを立ち上げていました。
(清水申~シミズノブ~さんの名前が記された書類。当時、女子の名前の末尾に「子」をつけて記載することも多かったようです。)
梅吉:ノブに関わるものがいろいろ展示されていますが、文学書の初版本が多いのが印象的ですね。ナスターシャ・キンスキーさんが主演した映画の原作の「テス」の日本語版もありましたね。古くから翻訳されて日本に紹介されていたのを大事に読んでいたのですね。また、英語の辞書もありますね。文学少女だったのでしょうか。
【都会育ちの細君と植物の細密画と酒造】
清水由紀さん:ノブは日本女子大学を出た女性でした。ノブの父は慶応大学の卒業生で日本陶器(現在のノリタケ)に勤めておりました。現在もですが、ノリタケは海外向けに人気がありますので、ノブの父は英語に通じていたのだと思います。また、今こちらで食器として使っているノリタケは、ノブの嫁入り道具だったものです。なぜ、そんな都会のお嬢様が山梨に来たのかですが、4代目と結婚した当時は、4代目は東京で銀行に勤めており、北杜市に戻る予定はなかったのです。しかしながら、3代目が急逝したため、急遽4代目として後を継ぐことになり、夫婦共々東京から呼び戻され、山梨で生きることになったようです。
梅吉:ノブにとっては非常に大きな変化だったかと思います。その暮らしを経てノブが残されたモノの中で、由紀さんやご家族が特にインスピレーションを感じられたものはございますか?
清水由紀さん:はい、文学書の初版本を見て、そのイメージを生かして作ったメニューブックがあります。また、ノブは植物学に興味があったのか、非常に精密な自作の植物画も多く残しており、今回のセラー ドア向けにメニューブックの装丁としても採用しています。現在、武の井酒造では花酵母を使った醸造を行っています。その前の時代までは、出稼ぎ杜氏が他の土地から酒造りの時期だけ来る形式でしたが、現在の杜氏である夫の従弟たちから出稼ぎでなく、常駐する人材が杜氏を勤めるようになりました。ノブの精密画を思わせる植物画の数々を見るたびに、ノブが後世の花酵母を使う道を伝える架け橋のように思えてなりません。
【当社のメッセージは多様化です…】
梅吉:話が変わりますが、こちらのセラー ドアのテーブルや椅子もよく見ると一つひとつデザインが違うのですね。全体的なトーンは似ているのですが、全て少しずつ異なっています。これは何かメッセージがあるのでしょうか。
清水由紀さん:はい。メーカーを厳選しました。作られた時代もほぼ同一世代のテーブルおよび椅子にしましたが、デザインはひとつずつ異なります。これは、私たちは、今までの武の井酒造を愛してくださっているお客様を今後も大事にしつつも、他の皆様にも当社の日本酒および焼酎を知っていただきたいと思っていることを伝えたかったためでもあります。今まで日本酒や焼酎に縁遠かった女性の方々、および海外の方々など日本酒についてこれから知っていきたい方々が気楽に訪れ、試飲し、お好みの酒を見つけて楽しんでいただければと考えています。違ったものを受け入れる、または受け入れる仕組みを考える、そうしたメッセージは多様化(ダイバーシティ)でしょうか。それぞれ異なる個々が、それぞれの好みでお酒を選んで楽しんでいく… そんな場所を提供し続けていくのが私たちの目標です。ノブの眼にも、それが見えていたのかもしれませんね。
皆様も「エフェ」にいらっしゃる際には、ぜひとも「NOBU SAKAGURA Cellar Door~ノブ サカグラ セラー ドア」にもお立ち寄りください。不思議なタイムトラベル感と共に、美味しいお酒とお料理が楽しめます。
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